【本質人間学】
今回のテーマは、
<不安の渦から一歩出よう>
です。
「不安」は、大きく3種類あると考えます。
1つ目は、何か特定のことが起こったことに対する脅威や危機の反応としての不安。
2つ目は、何か特定のことがこの先起こるのではないかという予期不安。
3つ目は、漠然とした特定できない曖昧な脅威を感じたときに経験する心的反応としての不安。
もしあなたが今、不安を感じているとすると、どの不安でしょうか。
スピールバーガー(1972)は,不安発生のメカニズムをモデル化し,不安を状態不安state anxietyと特性不安trait anxietyに分類しています。
●状態不安は,状況を脅威的なものと評価したときに喚起される一過性の不安状態。
対象が明確で、状況が続くこと、または同じような状況が発生するかもしれないことに対し、不安を覚えます。
●特性不安は,その人が元来有している、不安を感じやすい性格的な傾向。
不安の発現が個人の性格特性に由来しているため、同じ状況でも不安を感じない人がいる中で、ことさらに不安を感じてしまいやすいのです。
一見、分類しているので別のものと思われがちですが、先の3つの種類も、スピールバーガーの2分類も、どちらも個人の物事の捉え方(認知)によって発生しているのは共通しているように思います。
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では、不安について、少し丁寧に見ていきましょう。
まず、状態不安について。
種類分けでは1や2がそれに当たります。
●何か特定のことが起こったことに対する脅威や危機の反応
●何か特定のことがこの先起こるのではないかという予期
これらは、本能的な感覚に端を発している、つまり人類の種の保存にとって大切な役割を担っている危機管理機能が含まれます。
サバンナで猛獣に襲われそうになったとき、命を守るために逃げるか戦うかを選択します。この際、相手の大きさや力量に対してこちらが及ばない不安を感じると、逃げる選択が正しい、となります。
また、次の日以降は猛獣に襲われた場所に行かない選択をします。これは、同じことが起こる可能性に対して不安を覚えるからです。
私たちはこのように、過去に起こったエピソードを未来に貼り替えて、そこに近づかない、近づきたくない、という思いを抱くのです。
さて、この状態不安で重要なポイントを示します。
■ポイント1/程度はどれくらい?■
次のエピソード例をご覧ください。
A.台風直撃の日に海岸を見に行く ← 命の危険
B.仕事をわからないまま進め、重大なミスをする ← 職を失う、あるいは立場がなくなる危険
C.自分の気持ちを言って、相手がイヤな思いをする ← 嫌われる、あるいはしばらく関わってもらえない危険
どれも嫌なことには違いないですが、それがもたらす脅威や損失に程度の差があることはおわかりでしょう。
悲しいことに私たちは、程度の差があるにもかかわらず、同じ程度で不安を覚えやすい傾向もはらんでいます。
ですので、まずは一歩引いて、程度がどれぐらいのものかを見てみることは、不安の渦から一歩出るきっかけとなります。
■ポイント2/闘争と逃走のバランスをとる■
サバンナで猛獣に襲われるエピソードで、逃げるか戦うかの選択をする、とありましたね。
人間は、何かしらの脅威に出会うと、そのような選択を無意識的に行うのです。
ポイント1で述べた例を思い出し、具体的に見ていきましょう。
A.台風の日に海に行く
これは命の危険があるので、完全にアウト、つまりやめる(逃走)選択をしますね。
B.仕事をわからないまま進め、重大なミスをする
これはどうでしょう。ミスが怖いから逃げますか?それとも、わからないことを解決すべく周りに尋ねたりして、一旦向き合って(戦って)みますか?
仕事の内容や自分の能力、職場の人や環境の支えが得られるかなどにより、工夫できるかもしれませんね。
C.自分の気持ちを言って、相手がイヤな思いをする
何か相手に言いたいこと、伝えたいことがあるけれど、相手がイヤな思いをするかもしれない。だから言わないでおこう(逃走)。あるいは、言ってみて相手がどんな反応をするか、どんな意見を言うか見てみよう(闘争)。
言いたい内容にも依りますし、相手の性格傾向でどのように受け止められやすいかにも依るので、とても繊細なところがありますね。
肝心なことは、どちらの選択をした場合でも、その結果まで全て自分で引き受けることができるなら、その選択をしてもよい、ということです。自分のやったことで生まれた結果を恨むのは、矛盾しているし筋違いですね。
闘争と逃走は、必ずしもどちらか選択しなければならないものではありません。
経過によって、その状況に応じて、細かく選択していくものです。
あなたの日頃からの傾向がどちらか一方に偏りがちならば、視野を狭くし、自分で不安を増強させている可能性があります。そこに気づくことが大切です。
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それでは、特性不安も見ていきましょう。
先の状態不安の検討の中で出てきたエピソードで、命の危険がほぼ無いBとCの例にある、「危険」と思う部分について注目が必要です。
B) わからないまま仕事を進めたら、重大なミスをする ← 確実に?
職を失う、あるいは立場がなくなる ← 確実に?
C) 自分の気持ちを言うと、相手がイヤな思いをする ← 確実に?
嫌われる、あるいはしばらく関わってもらえない ← 確実に?
答えは、誰にもわかりませんよね。
つまり、この例に上がっているのは自動思考と呼ばれるもので、似た条件が重なると、過去の事例から自動的に結果を予測して当てはめてしまう、私たちの傾向を表しています。
先にも触れた、「過去のエピソードを未来に貼り換える作業」をしているのです。
人によっては、「一般化されている常識や傾向を未来に当てはめる作業」になっている場合もあります。
■ポイント1/自分はなぜそれを脅威に思うのか理解しよう■
わからないまま仕事を進め、周囲の協力を得ながら、あるいは自分でわかる工夫をしながら、克服できる人はいます。たとえミスをしても、反省し、また前向きに乗り越えていく人もいます。
自分の気持ちをどう工夫して伝えるかを考え実行する人はいます。たとえ相手がイヤな思いをしても、素直に謝って関係を改善できる人もいます。
不安に思うということは、あなたの中の何か大切なものが脅かされる可能性が見えるから、イヤだし遭遇したくないのかもしれませんね。
理想の自分でなくなる?
プライドが傷つく?
不自由になる?
孤独になる?
この辺りは、人それぞれ違います。
自分自身を丁寧に見てみると、その脅威が現実的なことなのかも見えてきます。
場合によっては、無駄な心配をしているのかもしれません。
※筆者はエニアグラムワークを通じて、自動感情や自動思考を自己探求できる機会を提供しています。ご興味のある方は、OBPアカデミア主催のエニアグラムセミナーをご参照ください。
■ポイント2/今を生きよう■
冒頭の分類3にある、漠然とした不安も、ポイント1の検討を行うことで何かが見える可能性があります。
全て含めて、問題となるのは「今を生きていない」ということです。
過去、そして未来に意識が奪われてしまい、今をおろそかにしていると、余計に未来を暗くしてしまいます。未来は今の積み重ねなのです。
私たちの身体は、常に今にあります。
そこから離れるということは、心と体を分離し、ちぐはぐにして、故障を起こしやすい状態を作っていることになります。
今を生きるために、不安から一歩出るためのおまじない
「~じゃないかもしれない」「~でもないかもしれない」
を、自分の不安の最後にくっつけてみてください。
不安は的中することもあるので、持っていてもいい感情です。
場合によっては、そこに向き合うことも重要で、その予測力が功を奏すこともあります。
けれども、過剰になって今を生きられなくなるのであれば、おまじないでふと抜け出すことで、冷静さを取り戻すことも必要でしょう。
不安の渦の中にいると、正しい選択ができなくなってしまうことがあるからです↓
ハーバードメディカルスクールのジャーナルより
Focusing on past successes can help you make better decisions – Harvard Health
自分の特性に合った工夫で、不安と向き合っていきましょう。
(齋藤美由紀/公認心理師、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、日本エニアグラム学会特定ファシリテーター)
●本質人間学とは●
心理学、人間学、自然学の観点から、本質的な自己に統合していくための理解やワークを通じて、人間の変容や成長を目指す実践的、体験的学問を確立すべく、様々な試みを行う象徴としての独自キーワードです。多くの方々に知っていただき、共に探求できる機会が増えることを願っています。
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